2006年6月

連載6 「鍛える国語教室」学力形成シリーズ(第1期)

3 5時間で『川とノリオ』(教育出版小6上)を授業する

〜『川とノリオ』で指導する学習用語とその指導技法〜

岩見沢市立美園小学校 柳谷直明

 

 T 文学では何をどう読ませるか

 1 校内研究の方法例として書く

 平成18年度,別海町立野付小学校から共同研究の依頼を頂戴した。太田等先生が研修担当をされている関係である。1年間,一緒に勉強させて戴くこととなった。

 読みで指導する学習用語を研究されている。読解力が低下していると言われている昨今である。何をどのように指導すると読解力が向上するかと言う最先端の研究と言える。最先端の研究だけに,先行研究は少ない。教科書教材で指導する学習用語を提案した研究はない。そこで今後,次のように研究を進めるとよいだろう。

(1)問題

国語科では学習用語が明らかでないという実態を明らかにする。他教科の学習用語を調査市,国語科と比較するとよい。

(2)解決方法1 ―子どもの実態を把握する。国語学力を何で比較するかで調査方法が変わる。例えば,市販テストの点数で比較する。読解なので,音読の速度で比較する。音読の滑らかさで比較する。子どもの発言の変化で比較する。(授業での子どもの発言を記録する。そこで学習用語らしき言語を子ども達がどのくらい運用しているかの比較である)。比較テストを作成する。(物語で何を読むかを書きなさい。このような記述式だと知識の変容を比較できる)。このような実態をどうしたいのかという目標を明確にする。例えば,学習用語を明示し,指導し,行為化させて国語学力を向上させるという目的である。

(3)解決方法2 国語科での学習用語研究を広く調査する。(日本言語技術教育学会誌や私の雑誌論文などが参考になる)学習用語の定義を私の研究から使う。読解指導で扱われている学習用語に絞って列挙する。説明的文章と文学的文章に分類する。例えば,私の学習用語をいくつか引用する。これでは学習用語が多過ぎると批判する。そこで,いくつかの学習用語に厳選する。

(4)解決方法3 野付式読解指導を提案する。例えば,私ならこうする。文学的文章では何を一番に読ませたいか。登場人物の心情である。これまでの国語科では,1年生から6年生まで同じ問い(気持ちは何か)を問うていたので問題があった。いつも同じ問いでは系統性がない。気持ちとは何か。感情である。すると考えは含まれるのか。含まれないだろう。つまり,気持ちという学習用語では狭い。私は気持ちを読ませるのに反対しない。気持ちを読ませるべきである。しかし気持ちだけを読ませてきたこれまでの文学の読みには異を唱える。心情とは気持ちだけではないからである。私が一番読ませたい心情は葛藤である。葛藤は目に見えない。文章に書かれていないいくつかの心情を推測する必要がある。そこで,高学年で読ませる心情を葛藤とする。それを読む方法として妥当な推測とする。つまり高学年では書かれていない心情を妥当に推測させたい。それを深層義と呼ぶ。すると中学年では深層義(書かれていない心情)を読ませる妥当な推測の訓練が必要である。さらに低学年では表層義(書かれている心情)を正しく指摘させる必要がある。これで心情という学習用語を低中高と系統的・段階的に指導する方法が決まる。心情を読ませるために必要なのが事件である。文学(というか人生)には事件が起きる。事件に対して心情が揺れる。したがって,事件を正しく読ませる必要がある。事件も一つの作品でいくつかある。そこで,中心事件を限定する。これを野口芳宏主宰は焦点場面と呼ばれている。どこを焦点的に読むかである。起承転結それぞれでの登場人物の心情である。しかし,起や承での登場人物の心情を詳細に扱わない。1時間で起承を読ませる。そして,転での中心事件を読ませる。転や中心事件という学習用語を子ども達が自分の発言で使えるようにさせる。「僕は,ページの行目から中心事件が始まると思います。なぜなら,ここらか登場人物の行動が詳しく書かれているからです。」というような発言を目指したい。一つの作品では次のような図になる。

 

 文学的文章で読ませる学習用語例

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 学年間の系統性は次のような図になる。

 

 文学的文章で学習用語「心情」を読ませる系統図

 

 

 

 

 

 

 

 


 低学年                                高学年

 

 このように,自分達の子ども達の実態からこのような学習用語が必要だと決める。

あとは授業研究を重ね,結論を導く。最初から学習用語を確定できない。そこで,先に書いたような学習用語を実際に授業で指導する。例えば私の授業のように学習用語を指導する。そして,どの学習用語が必要で,どの学習用語が必要ないかを検討する。更に,どのように学習用語を指導するかという指導技法も検討する。

 ここで校内研究の一例を書いた。文学的文章で何を読ませるかという私の今の考えである。以下,野付小で私の提案授業である。(記録してくださった野付小の先生に感謝する。)

U 『川とノリオ』授業

(柳谷直明,5月23日(火),別海町立野付小学校6年生14名)

 

1 子ども達の実態評価を行う

 

1 ノートをしまう。では号令。

 

@ 姿勢を正しくしてください。これから,5時間目の勉強を始めます。

 

2 よろしく。今日は物語では何を読むかを学習しよう。1年生からずっと物語を読んできているよね。物語では何を読んできたか。発表。たくさん読んで来たしょう。

 

A その題名を言えばいいんですよね?

 

3 まあ,言ってみて。

 

B 『五月になれば』。

 

3 『五月になれば』。5年生の教材。

4 『五月になれば』を学んで何がわかった?(反応無し)

5 『五月になれば』っていうのはさあ,物語の題名だよね。それを読んで何が身に付いたか。例えば4年生で『ごんぎつね』を読んだ。『ごんぎつね』を読んで何が身に付いたか。何?

 

C うーん……,わかりません。

 

6 わかりません! 狐の勉強したんでしょう。じゃあ理科でしょう。国語じゃなくて,理科の勉強したんじゃない?

 

D ん?

 

7 国語の物語で何を学んできた,誰も言えないか?

 

E 国語は,表現と気持ちの表し方。

 

8「気持ち」。いいね。「気持ち」はいい。物語で書かれているのは人間だから。単元の目標は「人間を見つめて読もう」と書いてある。 

人間を読むのだから,「気持ち」も重要だ。「気持ち」を勉強してきたんだね。

 

子どもの発話はなるべくそのまま残す。子どもの実態がよくわかるからである。しかし,私の発話は修正する。私の冗長な発話は指導の手本にならないからである。したがって,教師の発話はこのように話した方がよいという手本として書く。しかし,だからといって発話の趣旨を変えるわけではない。修正するのは繰り返している言葉,文体の不統一である。私は小学1年生でも常体で発問している。この授業でも同様である。しかし,時折敬体が混ざっていた。そこで常体に変える。このような部分的な削除,修正である。

子ども達は素直に何を学んできたかを考えていた。実態がよくわかる導入だった。

 

2 『プランくん』に学習用語で分類させる

 

9 国語では何を読むのかがはっきりしていない。そこで今日は少し,きちんと整理したい。メモ用紙をこれから配る。はい,どうぞ。貰ったら有難うと言う。

 

   F 有難うございます。

 

 10 はいどうぞ。(各列同様にして配布)

 

 11 後ろに渡すときも,「はいどうぞ」って言ったらおもしろいよ。鉛筆は持っていてよい。先生が話していることで大事だなと思ったらどんどんメモする。

ここの四角にラベル欄と書く。上の四角をラベル欄という。

消しゴムは使わない。メモだから消しゴムを使う必要なし。

その下はブランチ欄と書く。ブランチ欄に詳しくメモする。

 

 「ラベル欄」,「ブランチ欄」(板書) 

 

G ここに書くんですか。

 

 12 いいよ。間違っていても気にしない。どんどん書く。

13 横に小さい四角が書いてある。これは後で数字を書く欄なのでナンバリング欄と呼ぶ。この『プランくん』はスピーチでも作文でも使える。とっても便利なメモ用紙だ。

 

 「ナンバリング欄」(板書)

 

 『プランくん』を全校で使わせる。ラベル欄には抽象的に広い言葉を書く。ブランチ欄にラベル欄の具体化を書く。『川とノリオ』の分類を『確かな国語学力(基礎・基本)を育てるマスターカード(小学6年生用)』(野口芳宏監修,柳谷直明著/「鍛える国語教室」研究会空知ゼミ著,平成1710月)に書いた。御覧戴きたい。

 「プランくん」のメモの仕方はこうだ。ラベル欄に抽象的な言語を書かせる。ラベル欄に思いつくだけ先に書かせる。ラベル欄が書けなくなったら,ブランチ欄にラベル欄の言葉を詳しく書かせる。どのブランチ欄から書いてもよい。ブランチ欄もどこかだけを詳しく書かせるのではない。できるだけ全体を満遍なく書かせる。最後にどの順番で書いたり話したりするかを決める。ナンバリング欄に数字を書く。

 日本言語技術教育学会第15回大阪大会(平成18年3月)での模擬授業の際にも『プランくん』にメモさせる提案を行った。『プランくん』に読解させる方法は,これまでほとんど発表されていない。そこで今度,読解指導の際にも『プランくん』を使わせたい。作品から抽出できる抽象的言語をラベル欄に書かせる。その言語にカテゴリー化される具体的な言語をブランチ欄に書かせる。作品に明示されていない抽象的な学習用語をラベル欄に書かせる。作品に明示されている具体的な言語をブランチ欄に書かせる。

 低学年ではブランチ欄に作品の言語を似ている仲間ごとにメモさせてからラベル欄の学習用語(作品に書かせていない抽象的な言語)を指導する。高学年ではラベル欄に書く学習用語(作品に書かれていない抽象的な言語)を発言させメモさせて,ブランチ欄に作品の言語を分類させて発表させる。時,場所,人物,事件などの学習用語は低学年でも使わせる必要がある。場面という学習用語をラベル欄に書かせ時,場所,人物として作品に書かれている具体的な言語をブランチ欄に書かせる。場面も起承転結それぞれになる。したがって,始めの場面,中心場面,終わりの場面くらいに分類させた方がよい。中心場面での中心事件を「何がどうした」と読ませたい。そこでの登場人物の心情を読ませる。ここで読みは終わらない。登場人物の心情に対する評価を問い,評価能力を育てたい。

 評価能力をなぜ育てるのか。思考力を鍛えたいからである。登場人物の心情はその人物の思考の現れである。それに対して,読み手である子ども一人ひとりに自分の考えを持たせたい。そこで,登場人物の心情を論題にして討論させる。すると自分の結論と根拠を主張させる思考力を鍛える授業ができる。

 

3 音読の速度規準を明示し,行為化させ,評価する

 

14 物語の読みのとき音読をしてきたと思う。だから,ラベル欄に音読って書く。そこでいいよ。音読をどのようにするか。音読も1年生のときからやってきたよね。それで何を学んできたかを書く。どのように読んできたか。

 

「1 音読」(板書)

 

H 強弱をつけて,スピード……?

 

15 そう。いいこと言う。それが学習用語だ。

強弱という言葉を知っていた人は賢い。強弱。それからスピードって言ったよね。スピードでもいいけど速度という言葉にしておく。

 

「強弱/速度」(板書)

 

16 速度は,どのくらいで読んだらよいか? 最近,先生が考えたのは6秒間で学年×10文字だ。皆さんは6年生なので,6秒間で60字だ。

 

「6秒間で60字」(板書)

 

17 書けなかったら下にどんどん書いていっていいからね。(『プランくん』のメモを見ながら指示をしている。)

音読の下に書くんだよ。では,やってみようかな。

消しゴム使わないってさっき言ったよね。使わなくていいの。間違っても気にしないでどんどんメモする。消している時間もったいないからね。

 

18 よし,鉛筆置く。いくぞ。「町外れ」から,自分の速度で読むんだ。なるべく速く読む。先生が止めと言ったら,そこで線を引く。何字読んだかを数える。

60字を超えたらスーパー6年生だ。行くよ。「町外れ」から音読始め。

 

音読する。

 

19 止め。そこで線を引いておく。何字だったか?

 

I 漢字は一文字?

 

20 漢字は一字。何字?

 

J 263035……。

 

21 3035,おお。4460いった人? 

 

22 2回3回やったら増える。もう一回いくよ。同じとこ。

1回目何字かを書いておく。これより増えたら伸びたということになる。いくよ,「町外れ」から。用意,始め。

 

音読する。

 

23 止め。さっき数えた続きから数えればよい。何字だったか?

 

K 61

 

24 おお,いいね。60字以上いった人。おお,増えた増えた。では特別にもう一回だけ。いくよ。結構おもしろいでしょう? 用意,始め。

 

音読する。

 

25 止め。すごく増えたね。何字だったか?

 

L 57

 

26 そう。でも,すごいしょう。最初よりも増えたよっていう人。(ほとんどの子が挙手する)

手を下ろしていい。

 

27 今,柳谷先生が6秒間で60字という目標を示したから,皆は伸びた。こういう学習用語を覚えていると,どんどん学力が育つ。

 

 言語活動と学習用語の区別

ここでは音読という活動をラベル欄に書かせている。活動は学習用語に含めないと私は考えている。活動はかなり広い言語だからである。学習用語は指導事項であり,子ども達がそのまま学ぶ用語である。したがって,できるだけ具体的な言語にすべきである。そこで,子ども達にさせる活動の名称としての言語活動名とそれを適正にさせるための学習用語を別にして提案している。ここでは,言語活動名をラベル欄に書かせている。広く作品を読む方法を学ばせたかったからである。中心場面を読ませる場合には,ラベル欄に学習用を書かせ,作品の言語をブランチ欄に書かせたい。

 高学年での適正な音読速度を1分間で600字程度とした。1分間音読させると400字かどうかを数えさせるのに時間がかかる。そこで,6秒間で60字にした。具体的な評価規準である。このように具体的な規準を明示すると子ども達も目指すところがわかる。

 

4 学習用語「題名,作者名,本文」の音読を鍛える

 

28 先生はもう一つだけ指導して音読を終えたい。題名は大きく読んだ方が聞きやすいね。題名を漢字で書いている人,偉いね。漢字がわからない人は平仮名でよい。消しゴムは使わない。「いぬいとみこ」とは何?

 

M 作者。

 

29 よろしい,作者名。説明文のときは筆者名と言うけど物語のときは作者と言う。作者名は小さくてよい。それから「町外れを」からを何と言う? さっき柳谷先生がいった。題名,作者名,そして「町外れ」からを何と言うのか。

30 本文と言う。書けたら下に書いて。書けなかったら横に移ってもよい。

 

「題名−大/作者名−小/本文−間」(板書)

 

31 本文を読むときは,少し間を空ける。このように知識として覚える。

実際にやってみる。いいかい? 『川とノリオ』からね。題名は大きく,作者名は小さく,間を開けて「町外れ」。一緒に読む。始め。

 音読する。

 

32 はい。という感じ。さっきは速度の練習だった。今度は上手な音読だ。

自信が無い人。正直でよろしい。後から手を挙げるとはどういうことだ? 自信ないけど読んでみたいでしょう? 読んでみたいよね?(一人の子に近づく)

はい,起立。

 

N いや,のどが……。

 

33 のど? のどがどうしたの?

 

O のどが痛いんです。

 

34 喉が痛いの。ありゃ……,かわいそうに。(他の子を指す)

35 いいかい。かっこよく読むんだよ。

題名は大きく,作者名は小さく,少し間を空けてから本文を読んだら,かっこよく読める。はい。

 

一人の子が音読する。

 

36 よろしい。拍手。かっこいいでしょう? でも私の方が上手だわ,僕の方がもっと上手にできるよという人。いない? 負けちゃった? 皆……。

読めるよね? はい起立。もう少し題名を大きく読んだ方がかっこいいと思うな。

 

一人の子が音読する。

 

37 よろしい。はい拍手。いいね,どんどん上手になっていくね。人の音読を聞いているとさ,もっとなんか自分が上手にできそうって気持ちになっていくでしょう? なってくるよね? はい,起立。さあこれで最後にする。

 

一人の子が音読する。

 

38 よろしい。拍手。いいよ,上手に読めた。この「ひと筋」というのは読みづらいからな……。では最後にみんなで読む。『川とノリオ』,題名からどうぞ。

 

全員で音読する。

 

39 よろしい。今,柳谷先生に音読を習った。ね。音読を習って上手に読めるようになったな,と思う人は手を挙げる。ピッと手を挙げる。

 

半数くらいの子が挙手する。

 

40 いいよ。そう思えなくてもいいの。手を下ろしてよし。

学習用語を学ぶ。そうやったら上手になるのかなとわかる。わかったことに挑戦する。そして,自分で上手になったなあと思えたら向上したと言える。向上が大事だ。

 

5 場面の学習用語「時,人物,場所」を正確に読ませる

 

41 2番。音読は別に何を読んだってことにはならない。今は音読の技術の勉強をした。

物語では,さっき言ったように?

 

P 橘(仮名)。

 

42 さっき橘君が言った,物語で何を読むのかというのを覚えている人。

 

Q 気持ち。

 

43 気持ちだよね。物語で何を読むかをこれから考えていきたい。

 

44 「気持ち」も大事だ。その前に,どういう場面かと考える。ラベル欄に書く。

 

「2 場面」(板書)

 

私は板書している。子ども達は『プランくん』にメモしている。

 

45 物語には事件が書かれている。だから,どんな事件が書かれているのかと事件もきちんと読む。別なラベル欄だよ。横でも下でもよい。

 

「3 事件」(板書)

 

46 どんな事件か,どんな場面かという内容をきちんと理解して,わかってから「気持ち」を読む。

47 出ている人全部の「気持ち」を読むと時間がかかる。だから,特に中心の人物の「気持ち」を読んだ方がよい。物語の中心人物を別な言い方で何と言う?

 

R 主人公。

 

48 そうだ。ここは主人公の心にしておく。(別のラベル欄である)。

こういう内容を物語では読むんだよ。

 

 「主人公の心」(板書) 

 

 物語の3要素

このように,この時間では物語に書かれている要素としての「場面,事件,主人公の心」の3つを読ませた。この3つを読ませるので,ラベル欄にこの3つを先に書かせた。そして,作品に書いてある言葉,書いていないけど妥当に判断できる言葉をブランチ欄に書かせながら読ませる。読解指導での『プランくん』の使い方である。このくらいが物語で読む内容だと提案した。

 

49 中学校では,物語ではなく小説を読む。小説でもこういう内容が書かれている。だから,こういう内容を覚えておくとよい。

どんな場面かな。事件は何かな。

では『川とノリオ』だよ。『川とノリオ』は場面が時で分かれているね。時で分かれている物語もあれば,場所で分かれている物語もある。『川とノリオ』は時だ。

どんな時が出ている? 76ページ見るとパッと目に入る時は何か。

 

S 「早春」。

 

 50 そうだ。「早春」がある。だから,ここから「早春」の話だなってわかるよね。これが時。早春だね。

 

 「@ 早春」(板書)

 

51 77ページを見ると,時が書いてないんだけど,なんか変なのがあるでしょう? 何?

 

21 米印。

 

52 星印だ。正しくはアステリスクという。アステリスク。教科書にカッコを付けて書いておく。ア・ス・テ・リ・ス・ク。

いぬいさんがどういう気持ちでアステリスクを使ったかは,わからない。だけど,アステリスクの次の文を見ると「すすき」と書いてある? すると,いつだ?

 

22 秋。

 

53 秋だよね。76ページからは「早春」だったのに,アステリスクで秋になった。だったら,このアステリスクの所には本当は何と書くべきか。秋と書くべきだ。

ここからは秋。78ページを見る。何て書いてある?

 

23 「また早春」。

 

54 そうだ。「また早春」。1年が過ぎた。だから「また早春」から2つ目の場面にする。

 

 「Aまた早春」(板書)

 

55 ずっと見ていく。80ページはいつ?

 

24 「夏」。

 

56 そう,「夏」だよね。「夏」で分けてもよい。しかし「夏」は「また早春」に入れておく。

 細かく分けてもよい。しかし,今は少し大きく分けたい。だから3つ目の場面は81ページの「八月六日」からにしておく。

 今は横書きしているけど,教科書本文では漢字を使っているので漢字で書くね。

 

「B 八月六日」(板書)

 

57 「八月六日」がずっと続く。82ページも「八月六日」の話だ。「黒いパンツも,行ったきり……」の後,またアステリスクがある。

 

58 このアステリスクは秋ではないね。「ノリオは遊び疲れていた。」とあるのだから,同じ日だ。だから,少し時間がたったという印だ。

 

59 またアステリスクがある。そして「おぼんの夜(八月十五日)」だ。「八月六日」から飛ぶ。だから,「おぼんの夜(八月十五日)」は分けておきたいな。

 

「C おぼんの夜」(板書)

 

60 そして「また秋」,「冬」,アステリスクとある。85ページ。

この分け方は今,先生が考えている。だから,これが必ず正しいというわけではない。担任の先生と後で学習するときに,また変えても全然かまわない。

 

61 最後は「また,八月の六日が来る」,85ページからにしておく。

 

「D また,八月の六日が来る」(板書)

 

場面分け

『川とノリオ』は時によって場面分けされている。だから時で分けた。場所や人物で分けている作品もあるだろう。

分け方はこのくらいが妥当だろう。先行研究を参照していない。私の感覚で分けた。それぞれの場面で人物や場所をきちんと書かせる必要がある。今回は時間がないので止めた。かなり教師主導的な授業になっている。これはこれでよい。子ども達は作品をあまり読んでいない。そこで,強引に私が進めた。ただし,このように進めるだけがよいわけではない。ここはかなり速いペースで進めた。次の討論で子ども達に思考させたかったので,どんどん進めた。

ここは伝達が主になる,ここは対話が主になるなどの学習形態の変化を工夫する。とかく場面を読ませる段階,学習用語を初めて指導する段階では伝達が主になる。子ども達が学習用語に慣れたら,子ども達の対話で授業が進む。子ども達がどんどん発言する。

 

6 中心場面(焦点場面)を討論で決めさせる

 

62 全部を読んでもよい。しかし,かなり長い。だから,全部を細かく読んでいくと相当時間かかる。そこで,どこが中心かを決める。そして,中心場面だけをじっくり読む方がよい。

 

 @ 「早春」〜

 A 「また早春」〜

 B 八月六日」〜

C 「おぼんの夜(八月十五日)」〜

D 「また,八月の六日が来る」〜

 

63 いいかい? @〜Dのどこが中心かをパッと決める。今日読んだばかりだから間違ってもよい。ここが中心だと思う所を決める。

 

64 最初の「早春」かな。「また早春」かな。「八月六日」かな。「お盆の夜」かな。「また八月六日が来る」かな。

 

65 まだ決まっていない人。よし,もう少し読んでよい。あまりじっくり読んでいると授業が終わってしまうので,ぱらぱらっと見て決める。

 

66 ぱらぱら読む速読も大事だ。いつもそれでは困るけどね。

 

67 では,いくよ。絶対に手を挙げる。

@が中心だよ。お,0人。中心じゃない? どうして?

 

25 うーんと……。

 

68 例えば,他の方が大事そうだからとかね,最初はまだ大事じゃないよと思うからとか……。何かそういう自分の意見,理由を言う。

 

26 う〜ん。

 

このような発言の仕方を例示しても,その通りに話さない。話さないのか話せないのか。発言の仕方を指導する必要がある。

 

69 最初だからね。最初が中心であることは少ないかな……。Aだよという人。これも0人だ。へえ。「ノリオは小さい神様だった。金色の光に包まれた,幸せな二才の神様だった。」と書いているよ。「幸せな二才の神様だった」のよ……。いいの? 

 

70 「八月六日」。ぴっと手を挙げる。1……7,8人。どうしてか。一言でいいから,理由を言えるように考えておいてね。

 

71 C。1,2,3。3人。

72 D。1,2,3。3人。どれかが柳谷先生の考えている正解だ。どれだろう。でもそれも柳谷先生が考えている正解だからね。みなさんの担任の先生は別な所と考えるかもしれない。それはそれでかまわない。自分はここだなと思う所を決めればよい。ただし,適当に決めるのはよくない。その理由をきちんと決めて発言する。

 

 焦点精査読法

野口主宰は「焦点を絞り精査する」と仰る。つまり,全文を精査するのではない。焦点場面を決めて,そこだけ精査する。三読法のような通読,精読,味読でもない。この授業は飛び込みである。しかし,だからといって全文通読をさせていないのではない。一つの教材を5時間で指導する。文学的文章でも説明的文章でもである。5時間という限られた時数になると,指導事項(学習用語)を厳選する必要に迫られる。したがって,密度の濃い授業になる。全文を同じように読ませる精読ではない。いつも同じような,工夫の無い授業をしているから国語科は小学生に嫌われる。

 例えば,次は『鍛える国語教室』26(明治図書,2001年2月,38ページ)で私が提案した「焦点精査四読法」である。

 @焦点を絞る。A伏線を理解する。A焦点場面で「情」まで深める。B余韻を味わう。 

 

7 討論での学習用語「結論,根拠」を指導する

 

73 Cの人。あら,そんなにいた? Cは3人だよね。Cの人はBとかDは変だよと意見を言う。あなたは声が出づらいんだもんね,かわいそうに。

相手の考えを変えるために発言する。Bの人は変です,とはっきり言う。どうぞ。自信もってBは変です。Dでもいい。Dは変です。

 

27 ……。

 

何とも言わない。

 

74 最初に結論を言う。Bは変です。

 

28 Bで…。

 

75 「で」じゃなくてBは変です。いいよ。(子どもは黙っている)

今みんなに,きちんと討論する仕方を教えている。

 

76 別なラベルに書く。討論。討論するとき相手に意見を言うときには結論をきちんと言う。誰がどうなのか。そしてその根拠を言う。

相手の考えを変えるためには,相当強い気持ちでBは絶対変ですって言ってあげる。それが結論。いいよ。(まだ,黙っている)

 

77 Bは変です。小さい声でもいいからね。どうぞ。Bは変ですよ。

 

29 わかりません。

 

78 わかんないの? そっか。

 

 野口主宰はここで引き下がらないだろうと思いながら,私は引き下がった。この子だけに時間を使うのはどうかと判断したからである。しかし,ここで引き下がっては,この子の向上的変容を私は放棄したことになる。もう少し言わせるべきだった。

 

 Cを支持した3人目の子に発言を促した。

 

79 B番かD番……,変ですって。どっちでもいいよ。

80 何番が正しいと思った? Cでしょ? Cがどうしていいと思った? いいよ。これが大事だと思うからって言うの。

 

3人目の子も黙っている。

 

81 例えばさ,この中で好きな所は無いの? 「ひざにしずくが落ちる。」と書いてあるでしょう。その「しずく」というのは,じいちゃんの涙だよ。じいちゃんが泣いているんだから中心場面だよ。だからBの人たちは変です。こう言えばよい。

言われたBの人は反対と言えばよい。それを反論という。誰も反論できなかったらBの負け。Bの人,言いたいことはないか。はい,CでもDでもいいよ。Cは変ですDは変です。Dは違うと思います。どうだ。「しずく」に負けたか。自分はBだと思うしょう。Bは何で正しいの?

 

30 ノリオのことがたくさん書かれてあるから。

 

82 うん。どれが正しいかな……。

83 中心場面がどれかなあと考えていく。今日は答えを言わないことにする。

 

 これも野口流ではない。解は明示すべきだ。しかし,飛び込みなので止めた。

 

8 中心事件「母の死」に対する葛藤を読ませる

 

84 では事件。お盆にじいちゃんが泣いていたのはなぜか? 事件の下に書いて御覧。83ページ見てわからなかったら,もうすこし後ろ見てみといいかもしれないね。書いた? よし止め。では読んでみて。

 

31 ノリオの母ちゃんが死んでかわいそうだったから。

 

85 もっと短く。

 

32 母ちゃんが死んでかわいそうだったから。

 

86 もっと短く。

 

33 かわいそうだったから。

 

87 主人公がかわいそうだと思った。別な考え。

 

34 ばあちゃんも。

 

88 ばあちゃんもいない。ただね,ばあちゃんがいないというのは……,よく見てみて御覧。88ページ。じいちゃんが悲しんでいるのは,ばあちゃんがいないからではないというのがわかる。どこだ? 証拠の言葉がある。

 

心情の主体

心情の主体を混乱している子がいた。例えばここで私はじいちゃんが泣いていた理由を問うた。それに対して「かわいそうだから」というのは妥当ではない。「かわいそう」と思っているのはじいちゃんに間違いない。しかし,じいちゃんはノリオやノリオの母ちゃんがかわいそうだから泣いていたのだろうか。そうではない。「かわいそう」というのは相手を慮る心情である。悲しんでいる主体は相手になる。確かにじいちゃんがノリオやノリオの母ちゃんの心情を慮って泣いているとも考えられる。しかし,じいちゃんが泣いているのはじいちゃんが悲しいからである。自分が大切に育ててきた娘が戦争で死んで悲しくて,悔しくて泣いたのだ。じいちゃんの心情はじいちゃんを主体として考えさせたい。

同様読みが子どもの『プランくん』に見られた。「主人公の心」というラベル欄に下に「ノリオがかわいそう。」と書いてあるものだ。「かわいそう」と思っている主体は自分である。それは「主人公の心」ではなく『プランくん』を書いた子の心である。

「主人公の心」といったときには,心情の主体は主人公だと指導したい。

こう読むと無駄な時間を使っている。短く言わせているのは事件だけにさせたかったからである。しかし,「ばあちゃん」に話がずれた。その発言を拾ってはいけない。論点が拡散していくからである。これは先の意見を修正させて,事件は「母ちゃんの死」だけでよいと束ねる必要がある。

子ども達の『プランくん』を後で読むと,きちんと「母ちゃんの死」と書いている子が14名中10名いた。よく理解していた。読めていない4名を今後指導する必要がある。

 

89 「前に死んだ」と書いている。

ノリオはどういう心情? 例えば86ページに「じいちゃんも,ノリオもだまっている。」と書いている。それはどういうことか? 黙っているときのノリオの「気持ち」を考えてみる。難しいけど考える。

期間巡視。書く時間を保障する。

 

90 すごい。たくさん書いている人が何人もいる。すごいね。難しいけど,考えれば考えるほど賢くなる。

さて,書けた人,発表する。どうぞ。

 

35 母ちゃんが帰ってこないことがわかって,呆然としている。

 

91 「母ちゃんが帰ってこないことがわかって,呆然としている。」はい。

 

36 ノリオは今のことを真実とは思いたくないのかもしれない。

 

92 真実とは思いたくない。

 

37 もう悲しいこと言いたくない。

 

93 「もう悲しいこと言いたくない。」悲しいのは当たり前なんだよね。でもそればっかり言っていても仕方がないということかな。はい,後書いた人発表して終わるよ。書いた? いいよ,書いたのを読んで。自信持って。はい。

 

38 お母さんを探して歩いても,ノリオのお母さんは帰ってこなかったから。

 

94 「探して歩いても」ね。はい。

 

39 お母ちゃんが帰ってこないとわかって悲しい。

 

95 「帰ってこないとわかって悲しい。」これは実は重要なことなんだよね。本当に大事な意見だね。

このくらいにして終わりにする。

今日はたった1時間の授業だった。しかも,まだ読んでない教材で皆に無理矢理読んでもらった。でも,いい意見がたくさん出てよかった。よく考えた。すばらしい。

これからも物語を読むときは,場面を気にしてみてね。どこが中心かなと考えてみたりする。そして何が事件かな,主人公の心情,心はどうかなと考える。

こういう言葉をちゃんと覚える。

 

96 では,そろそろ終わりなんだけど,こういう言葉(板書の言葉)を学んだら,それを頭に入れる方法として,それですぐにクイズをするという方法がある。

横の人,じゃんけん。どうぞ。

勝った人はここ(黒板)に出ている言葉を使ってクイズを出す。

例えば,6秒間で何字くらいを6年生は読めるといいですか。答えたら,交代する。

クイズ大会1分間始め。

 

子ども達はクイズを楽しんでいる。

 

97 それでは終わる。さようなら。

V 『川とノリオ』では何を読ませるか

私は今回の授業では次の2つを目指した。

1 文学の読解で指導する学習用語の提案

次の学習用語を指導した。

 

メモの学習用語「ラベル欄,ブランチ欄,ナンバリング欄」

音読の学習用語「強弱,速度(6秒間で60字),題名,作者名,本文,大小,間」,

物語の学習用語「場面(時,場所,人物),事件(中心事件),主人公の心(悲しい)」

討論の学習用語「結論,根拠」

 

これらは指導案に書いてある通り,私が計画していた学習用語である。私が計画していた学習用語の殆どを指導したのでは,計画の論理が優先した授業と言える。もう少し状況の論理としての子ども達の発言を優先させたかった。授業の反省である。

学習用語を指導する授業は楽しくないだろう。知識注入式だからである。しかし,知識が無い状態の場合には注入すべきである。子ども達は物語で何を読んでよいかわからなかった。案の定,「気持ち」という発言が出た。小学校1年生から6年生まで「気持ち」を読まされてきた証拠である。

授業中にも言っているが,それはそれで悪くはない。しかし,「気持ち」だけで有ることと,その系統性が無いことに問題がある。

これらの学習用語を小学1年生から6年生までの文学の授業で系統的に指導する。

学習用語を増やす必要はない。小学1年生から小学6年生まで同じ数,同じ言葉を学習用語としてもよい。なぜなら,読む文章が長くなるからである。同じ学習用語でも文章が長くなると難易度は高くなる。

学習用語とその指導法の提案になった。

 

2 主人公の心情(葛藤)から読ませる主題

作品の主題は何か。原爆の恐ろしさ。戦争の悲惨さ。戦争や権力に対して何も言えない弱者の悲劇か。私はこれらを捨象する。そして,こうする。

悲しみや苦しみを越えて生きていくノリオの逞しさ。

ノリオは悲しい。じいちゃんも悲しい。悲しくて何も言えない。ノリオの母ちゃんを奪った何者かに対する怒りをぶつけたい。だから,ノリオは悲しいだけではなく,怒り,苦しんでいる。そんなノリオの心を癒すのが,「かけら」の向こうに見える母ちゃんの姿でありにおいである。85ページのアステリスクは時間の推移を意味している。それも何年間もの時間である。2歳のノリオが小学2年になっている。その間,母の死を知る。ノリオにとっての中心事件は母の死ではない。母の死の認識である。その場面は書かれていない。

母との思い出に浸りたくて「かけら」を覗く。しかし,それは現実ではない。そこで,「かけら」を投げる。これを繰り返しているのだろう。「びん」と「ガラス」とで違う物だということが暗示されているのだろう。いつまでも「かけら」を覗いていたい。しかし,それを投げて現実に戻り仕事をする。思い出に浸りたいのだ。しかし,現実を生きていく。この葛藤の中でノリオは生きる。現実を生きるノリオの逞しさを主題として読ませたい。

 

後者はこの一時間で解決するつもりは無かった。さらに時間をかけて読ませたい。

このように,技能面の学習用語はどの文学作品でもある程度一致する。しかし,作品の価値面の学習用語は指導者が決める。子どものメモから今後の指導の必要性を分析したい。