私家版『鍛える国語教室』復刊によせて

「鍛える国語教室」研究会 主幸 野口芳宏 

 

 

 『鍛える国語教室』という言葉は本当に懐かしい。「教育技術の法則化運動」の中で、各地の有為な若手教師との出合いが生まれたのが発端である。その最盛期には、向山、有田両巨頭に私も末席を与えられ、「ビッグ・スリー」などと呼ばれたこともあった。あの教育運動の中で、私の実践も注目され、両巨頭に続いて私にも著作集刊行の話が生まれた。当時、明治図書出版の常務取締役であった江部満様の御高配による企画である。

その後私は教頭の身分で、あちらこちらへと出歩いた。それが目障りだったらしく、いろいろと圧力もあった。校長試験を受ける立場上目立たぬようにと努めていたが、「これが最後」という校長試験を済ませてからは、が据わった。「やるだけのことはやった」という思いになり、著作集の編集に取り掛かった。全ての原稿を明治図書へ届けると、そのシリーズの名を考えよと江部さんからの下命である。そこで「鍛える国語教室」という案を出すと、江部さんは大変喜ばれた。全二十巻、別巻三巻、合計七千ページにも及ぶ著作集は、私の身に余る豪華なものであった。幸いに好評で三版を重ね、著作集としては異例の部数だった。

そこで、平成五年十二月から、季刊の個人雑誌を出そうということになった。これも江部さんのお薦めで『鍛える国語教室』と称して、年四回を発行した。足かけ八年、二十六号まで出したが、部数が伸びず廃刊の止むなきに至った。

しかし、いかにも惜しい、残念だ、同志で続刊しようという声に応えて、私家版の『鍛える国語教室』が刊行されることになった。その難行に挑んでくれたのが、北海道江別市の柳谷直明先生である。そうでなくてさえ多忙を極める現場にあって、柳谷先生は信じ難い誠意と努力を傾注され、季刊の形で私家版の『鍛える国語教室』が、平成十四年からほぼ五年間、十二号まで刊行された。

柳谷先生が教頭に栄進されることになり、何としても私家版の季刊は継続困難という事態となり、これも休刊になった。これらと並行する形で私の編著、単著を中心とした単行本のシリーズも江部さんによって企画され、これまた十六巻に及ぶラインナップがなされた。この中には、鍛国研に連なる実践者の単著も加えられている。新潟の庭野三省校長の『雨ニモ負ケズ』、栃木の山中伸之先生の『聴解力を鍛える』などが知られている。

また、書籍の刊行とは別に「鍛える国語教室」研究会(略称、鍛国研)は、ずっと継続して、大会や集会を開き続けてきた。平成二十一年度からは全国大会を開こうという気運に押され、これも柳谷先生を中心とする空知ゼミの仲間が音頭をとってくれている。平成二十三年度は、全国大会を広島で、全道大会を北海道の三笠市で開いた。

いずれも参会の方からは大変に喜ばれる有益な会となり、大きな励みとなった。

さて、そこでしばらく休刊していた『鍛える国語教室』を続刊しようと、これまた柳谷直明先生の肝煎りで話が持ち上がった。ここに復巻一号は通巻の十三号としてスタートする。『鍛える国語教室』は第一著作集が第一期、  明治図書刊行の季刊雑誌が第二期、北海道教育大学在任中に出した第二著作集『人間修業・教師修業』(全十五巻、別巻二巻、全五千ページ)が第三期、そして、柳谷先生の私家版季刊誌が第四期、今回の復刊は第五期ということになる。

日本人としての国語学力を高める授業改革が、鍛国研の使命と我々は心得ている。この度、装いを新たに再出発することになった第五期の私家版『鍛える国語教室』が我々の目指す「日本人としての国語学力」の再興、向上、前進に役立ってくれることを心から祈っている。志を同じくする前途有為な多くの先生方の手に渡り、広く普及することになるように、大方の御協力、御支援をお願い申し上げ、まえがきとする。

 

 

(付記)

 第五期の初号は柳谷直明先生が指導された教室から生まれた実録である。称して『授業作文』と呼ぶが、これは柳谷学級の子供が受けた授業の記録であり、一読されればその描写や記録の確かさに瞠目されることだろう。これは正真正銘、柳谷直明先生の指導の賜であり、指導という営みがいかに大きな力を持つものかということを了解されるに違いない。

 しかも、この実録は頑張ればどの教室であってもこのレベルぐらいまでは至れる可能性を示した点に大きな価値がある。むろん、柳谷先生ならではの優れた指導力あってのことだとも言えるが、他の人にはとてもできない特殊事例だと解されたら残念である。それでは柳谷先生の本意と離れることになるからだ。

 この優れた一つの実録から拾える指導の原理、原則の抽出と普及こそが我々鍛国研メンバーの切なる願いであることを書き加えておきたい。また、率直な批判こそが我々を育てることになる。そのこともまた読者諸賢にぜひよろしくお願い申し上げておきたい。