『一つの花』の指導案４年生用

国語科学習指導案～『一つの花』の鑑賞指導～

日時　2007年10月５日（金）　　　

第４校時（11時30分～12時45分）

　　　児童　４年生21名　　　　　　　　

指導者　柳谷　直明　　　　　　　　

１　教材について

（１）教材名

　今西祐行作『一つの花』（教育出版，小４上，72～79ページ）

（２）教材の目標

・価値目標　父との別れの状況を理解できないゆみ子の悲哀を読ませる。

・技能目標　相手のために発言するという目的で，コミュニケーション能力を育てる。

２　児童の実態

省略。

３　教材の価値

父はゆみ子を泣き止ませようとして「ぷいと」いなくなった。そして，「一輪のコスモス」をゆみ子に渡した。そして，こう言う。

「ゆみ。さあ，一つだけあげよう。一つだけのお花，大事にするんだよう……。」

ゆみ子は，これが父の最後の言葉だとは全く理解できずに，無邪気に喜ぶ。そして，父は「にっこり」笑って汽車に乗って行ってしまう。「一つの花を見つめながら……。」である。

クライマックスでの登場人物の行動を列挙する。ゆみ子が駄々を捏ねて泣く。お母さんがあやす。父がいなくなる。父がコスモスの花を見つける。父が慌てて帰ってくる。父がゆみ子に「一つの花」を渡す。ゆみ子は花を貰う。ゆみ子は喜ぶ。父はにっこり笑う。父は「一つの花」を見つめる。父は汽車に乗って行ってしまう。父はなぜ，にっこり笑ったのか。ゆみ子が喜んだからだけではないだろう。ゆみ子に悲しい顔を見せたくなかったからである。

「一つだけのお花，大事にするんだよう」は「一つだけの花を大事にしてほしい」という心情である。これは文字面から読める。それは表層義だ。父の真意もこれならば，深層義とも言える。しかし，これは真意ではない。なぜなら，ゆみ子を喜ばせるためにたまたま見つけた花だからだ。したがって深層義は別である。そこで妥当な深層義を読ませたい。

父の会話文の深層義，つまり父の真意は何か。父からゆみ子に渡された「一つの花」は何を意味するのか。それは書かれていない。だから，様々に推測することができる。

「一つだけのお花」を大事にしてほしいのではない。では，何を大事にしてほしいのか。「一つだけの」何か。父が一番大事にしてほしいのは命だろう。ゆみ子自身とお母さんの命を大事にしてほしいというのが真意だろう。そこには，自分や他者の命も含まれる。他には，平和・幸福・夢・愛などが考えられる。これらは，妥当な範囲の深層義である。

人間の心は多様である。したがって，これらだけが深層義だとは断定はできない。そこで，より父の真意に近い，より深い深層儀を読ませたい。

これらの父の心情を理解できないで喜んでいたゆみ子は哀れである。子どもも父の真意を読めない。したがって父の真意を読ませ，それを知らずに別れたゆみ子の悲哀を読ませたい。

４　提案

この授業では，大きく次の3つを提案する。学習用語の系統化，焦点精査の読解指導，PISA型「読解力」の保障である。以下，詳述する。

（１）学習用語の系統化　以下の「８　その他」。

（２）焦点精査の読解指導　

　焦点精査の鑑賞指導法には，次の２つのポイントがある。

　①　指導事項の厳選化

　②　授業時数の削減化

　具体的な指導事項を学習用語として授業で明示する。授業で明示するために，必要最小限に厳選する。

学習用語を厳選するために，授業時数を削減するとよいのだ。具体的には，どんな教材でも５時間くらいで終える。

学力が低下したから，授業時数を増やすと言う。授業時数を増やすと学力が向上するのか。そんなことは無い。子どもの個性を尊重するという美辞麗句の下，指導せずに活動だけさせているといくら時間が有っても足りない。

指導時数を減らす。そして，学習用語を厳選する。すると，重要事項だけが焦点化される。例えば，『アレクサンダとぜんまいねずみ』（小学２年生３学期）では，次のように指導した。

１時間目――教材文の始めから音読指導を重点的に扱う。音読，表層読み，深層読みの言語活動を扱う。

・音読の学習用語は「高低，緩急，強弱，明暗，昇調・降調」などである。

・表層読みの学習用語は「場面『時，場所，登場人物，行動』，理由，関係，葛藤，中心事件の決定」などである。

・深層読みの学習用語は「論破『引用，課題，結論，根拠，反論』」などである。２時間目以降の深層義では，読ませる学習用語が変わる。

２時間目――深層読みを重点的に扱う。音読，表層読みは重点的に扱わない。

ここでの深層読みの学習用語は「葛藤，選択，クライマックス（山場），発見，正誤，善悪，判断」などである。

３時間目――表層義と深層義を全文で分類させる。そして，主人公の葛藤を論破で表出させて，読ませる。

『プランくん』の「ラベル欄」に引用，課題，結論と根拠，友達の名前，先生の解などを書き，「ブランチ欄」にメモさせて，論破させる。論破では，適正なコミュニケーション能力も育つ。

ここでの深層読みの学習用語は「葛藤，選択，中心事件，山場，幸福，不幸，絶望，諦め，一縷の望み，正誤，善悪，判断，利己，利他，主題」，論破「引用，課題，結論，根拠，反論」などである。

（３）PISA型「読解力」の保障　

　現行『学習指導要領』では，「特に，文学的な文章の詳細な読解に偏りがちであった指導の在り方を改め，自分の考えをもち，論理的に意見を述べる能力，目的や場面などに応じて適切に表現する能力，目的に応じて的確に読み取る能力や読書に親しむ態度を育てることが重視されている」[①]から，ＰＩＳＡ調査のねらいと「相通じるものがある」[②]と文部科学省は言う。そこで「学習指導要領のねらいとするところを一層徹底する」と言う。

　国語科は「文学的な文章の詳細な読解に偏りがちであった」のか。確かに，「文学的な文章の」「読解に偏りがち」だったとは言える。１つの物語に10時間以上も時間を使っていたからである。しかし，「詳細な読解に偏りがち」だったのか。そうとは言い切れない。なぜなら，小学校教師全員が「詳細」に指導できないからである。小学校では，国語科を専門的に学んでいる教師ばかりではない。だから，「詳細」に指導していたとは言い切れない。

　現行『学習指導要領』国語科は３領域に分かれた。それぞれが広義の言語活動である。更に，具体的な言語活動が例示されている。それらの言語活動を通して，事項を指導するという分かりやすい方法だ。例えば，文学的文章の読解という言語活動を通して，読解に必要な事項を指導する。目的に応じた技術を持たせる妥当な指導である。

ところが，「文学的な文章の詳細な読解に偏りがちであった指導の在り方を改め」とあると，こう考える教師がいる。「『指導の在り方を改め』るのだから，指導してはいけないのか。よし，指導しないで子どもの考えを尊重しよう。」

　そして，どうなったか。活動主義である。その結果，読解力が低下するという結果を招くのは必然である。このように，すぐに何かに偏るのが問題である。

　文部科学省は言う。

「我が国の生徒は，『テキストの解釈』，『熟考・評価』，とりわけ記述式の問題を苦手としていることが明らかになった。この結果は，読む能力にとどまらず，書く能力とのかかわりを示唆している。」[③]

　したがって小学校では，こうすると言う。

「取り上げる言語活動において，児童個々の考えをまとめることを一層重視し，相互評価などを活用してお互いの考えを高め合うような工夫を行うことにより，児童自身の考えを明確にし構成する力を育成できるような指導の充実が求められる。」[④]

　その通りである。そのためにまず，教材や指導法での次の３つの偏りが問題だ。

①　「文学」への偏り。文学的文章，日常的文章，説明的文章を偏り無く教材として扱われていない。[⑤]

②　「文章」（書き言葉）への偏り。スピーチや対話などの「話し言葉」や図表が教材として少ない。

③　「理解」指導への偏り。理解の評価は表現で可能になる。表現力を理解力と一元的に指導していない。これらの偏りを解決すると，ＰＩＳＡ型「読解力」が育つ。

ＰＩＳＡ型「読解力」はこう定義されている。

「読解力とは，『自らの目標を達成し，自らの知識と可能性を発達させ，効果的に社会に参加するために，書かれたテキストを理解し，利用し，熟考する能力』である。」[⑥]

　ここにある「知識」は「knowledge」である。「知識」だと日本では，「宣言的知識（declarative knowledge）」に偏る。しかし，「知識」は「手続き的知識（procedural knowledge）」でもある。両者の「知識」が必要である。[⑦]

「知識」を学習用語として指導し，行為化させる。すると，ＰＩＳＡ型「読解力」も育つ。

５　指導計画（5時間扱い。本時3時間目）

（１）音読指導（強弱，明暗，緩急，高低，昇調・降調），構成読み（起承転結，伏線，山場，事件の発端，展開，結末）

（２）伏線読み（起・承場面読み），論破（引用，課題，結論，根拠），授業作文（引用，問い，答え，段落，句切り符号，常体，漢字）

（３）読解（心情「会話文，リーダー，副詞，行動」、表層義・深層義，葛藤、喜び，嬉しい，幸せ，悲劇，悲哀），論破（論題，結論，根拠），授業作文（引用，問い，答え，段落，句切り符号，常体，漢字）

（４）主題読み（中心事件，主人公や登場人物の深層義，主人公の成長，作品の価値，感想）

（５）テスト

６　授業の視点

　主人公をゆみ子だとする。そして，ゆみ子から読める作品の価値を主題とする。ここでは，母と父の心情を読ませる。それは，意図的に書かれていない。したがって表層義から深層義を読ませる。しかし，ゆみ子の置かれている状況がゆみ子には分からない。したがって読者の立場から，ゆみ子が理解できない状況をゆみ子から読める作品の価値として考えさせる。

　７　本時（３／５）の指導事項を具体的に把握する。[⑧]

（１）指導事項――次の学習用語を明示し，指導し，評価し，行為化させる。――

言語活動１　読解　読解を適正にさせるための学習用語。①心情「会話文，リーダー，副詞，行動」②表層義・深層義③葛藤④喜び⑤嬉しい⑥幸せ⑦悲劇⑧悲哀⑨論破「論題，結論，根拠」など。

言語活動２　作文　作文を適正にさせるための学習用語。①引用②問い③答え④段落⑤句切り符号⑥常体⑦漢字。

（２）　指導事項の配列

時配

子どもの言語活動

教師の指導事項（ゴシック体が学習用語）

備考

７分

８分

15分

10分

５分

１　読解

①　母の心情を読む

・表層義と深層義を学ぶ。

・会話文から深層義を読めると学ぶ。

・リーダーから深層義を読めると学ぶ。

・お母さんの会話文から深層義を読む。

・戦争に反対などできなかった時代状況を知る。

・お母さんの葛藤を読み，深層義を考える。

②　父の心情を読む

・副詞から深層義を読めると学ぶ。

・行動から深層義を読めると学ぶ。

・父の最後の会話文から深層義を読む。

・周りの子の発言を聴き，多様な考えがあると知る。

・父の悲痛を知る。

③　ゆみ子の心情を読む

・ゆみ子は喜んでいる。だから嬉しいのだと読む。

・幸せという論題に対して○か×を決める。そして，その根拠を書く。

・ゆみ子は葛藤してない。なぜなら小さい子だからだ。それゆえの悲劇を知る。

２　作文

・『プランくん』のメモで作文を書く。

　３　評価

・向上的変容を自覚する。

１　読解

①　母の心情

・「ええ，もう食べちゃったんですの……。」

→会話文，リーダーから心情を読める。書かれていない心情を深層義という。→もうない。仕方がないのです。

・「～ばんざあいって……。」→祝福→幸せのお祝い→夫が兵隊へ行くのを喜んでいる。

　○→誤答。×→正答。なぜなら，自分の夫が戦争で死ぬのを喜ぶはずがないからである。

・「ばんざあいって……。」

→リーダーの深層義をノートに書く。→見送るのよ。お別れなのよ。

②　父の心情

・「ぷいと」→副詞から深層義を読める。→ゆみ子をあやしたい。→笑顔にしたい。→何かないか。

・「あわてて」の深層義→ゆみ子を喜ばせたい。

・「ゆみ。さあ，一つだけあげよう。一つだけのお花，大事にするんだよう……。」→深層義は何か。→一つだけのお花を大事にしてほしい。→私との思い出，記憶，家族，母，思い出，愛，平和，命……。

③　ゆみ子の心情

・「喜びました。」→嬉しい。→幸せだ。

論題　ゆみ子は喜んでいる。したがって，幸せである。

　×が正解だ。なぜなら，父親が戦争へ行くのに幸せなはずがない。ゆみ子は小さいから状況を理解できない。だから喜んでいる。それだけにゆみ子は哀れだ。→主題を「父との別れの状況を理解できないゆみ子の悲哀」と指導する。

　２　作文

・作文の学習用語を簡単に確かめる。

・５分くらいで書かせて，発表させる。

　３　評価

・自己評価をさせ，向上的変容を保障する。

・導入不要。

・音読指導は本時では，省略。

・この授業は横書きで板書し，『プランくん』に書かせる。

・学習用語を板書する。未習漢字もどんどん使う。無理に漢字を書かせるためではない。語彙を増やさせるためである。

・○か×を問う。

・論破をさせる。「～に反対です。なぜなら―だからです。」

・５分間で８行くらいが４年生で適正な書く速度である。

・「授業作文」（柳谷直明編『作文力マスターカード　小学３～４年生用』，明治図書，2007年３月，88～91ページ）を使用。

・文例を参考に学びを書かせる。

・向上的変容を自覚させる。

（３）指導評価　学習用語を行為化させ，正しく読解させたか。論破で鑑賞を深めさせたか。授業作文で，学びをまとめさせたか。

８　その他（学習用語系統表）

Ⅰ　学習用語系統１～文学教材での系統案～

　高学年

　　　理　　　　　　　情

比喩（換喩，提喩）　　　　　主題（成長，向上的変容，価値）

授業作文（引用，問い，　　　心情（葛藤，畏敬，尊敬，勇気，臆病，正義，

答え，段落，句切り符号，　　　　善悪，決意，優しさ，厳しさ，愛憎，生死）

常体，漢字）　　　　　　　　　　深層義（本心，真情，効力，含意）

比喩（隠喩，直喩，擬人，リズム）表層義（抽象的，文脈上・発話の意味）

接続語（順接，逆説，添加）　　　　　価値（善悪，美醜，幸・不幸，利己・

論破（引用，課題，結論，根拠）　　　利他，有形・無形、最善・最悪，良否，

構成（起承転結，伏線，山場，照応）　　適不適，長短，真偽，有用・無用，

事件（発端，展開，結末，行動，理由）　　正否，精粗，深浅）

指示語（指示内容，代入）　　　　　　　　関係（親子，友達，友情，親友，

比喩（擬声語，擬態語）　　　　　　　　　　好悪，友人，親密，因果，遠近）

場面（時，場所，登場人物，人柄）　　　　　　心情（気持ち，考え，思い，

音読（高低，強弱，緩急，明暗，昇調・降調）　　　喜怒哀楽，感謝，感動）

定型（題名，作者名，本文，会話文，地の文）　　人物（善人，悪人，賢者）

低学年

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　45分間

Ⅱ　一定時間内でのバランス図（縦軸は学年，横軸は授業時間）

１　指導と活動のバランス　　　　　２　指導と評価のバランス

高学年

教師の　　　　　子どもの　　　　教師の　　　　　教師の

　指導時間　　　　活動時間　　　　指導時間　　　　評価時間

低学年

３　情の読みと指導のバランス　４　理の読みと指導のバランス

　教師の　　　　　子どもの　　　　教師の　　　　　子どもの

　情の指導　　　　情の読み　　　　理の指導　　　　理の読み

　学年が上がると（縦軸），教師の指導時間は減少するのが理想である。横軸は，１時間である。低学年は１時間の中で，教師の指導時間が多い。高学年は逆になるのが理想である。

[①]文部科学省「ⅡＰＩＳＡ調査(読解力)の結果を踏まえた指導の改善」『読解力向上に関する指導資料―ＰＩＳＡ調査(読解力)の結果分析と改善の方向―』）http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/gakuryoku/siryo/05122201.htm

[③]「ⅠＰＩＳＡ調査(読解力)の結果から明らかになった課題」（http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/gakuryoku/siryo/05122201/002.htm）

[④]「ⅡＰＩＳＡ調査(読解力)の結果を踏まえた指導の改善」（前傾）

[⑤] 拙著『〈学習用語のカテゴリー化〉で〈国語学力〉を育てる』（明治図書，二〇〇四年三月，五十～五十三ページに分類した。）

[⑥] 文部科学省『OECD生徒の学習到達度調査（PISA）2003年調査国際結果の要約』（http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/001/04120101.htm）

[⑦]『認知心理学講座四　言語理解』（Ｊ・グリーン著，長町三生監修，海文堂出版）を参照した。

[⑧] 野口芳宏著「四　本時の展開法の研究」(「鍛える国語教室　教材研究のための教師向けワークの開発（下）」『教材開発48号』明治図書，1992年１月，72ページ)