2006年5月UP
第110回全国大学国語教育学会・岩手大学第1会場(G1教室),平成18年5月27日(土)
小学1年生が10分間で400字を書く「作文力マスターカード」の実践 ――学習用語(定型と技術)を指導し,評価し,安定的に行為化させると誰でもできる――
北海道岩見沢市立美園小学校 柳谷直明
キィーワード:小学校,「書くこと」領域,作文,作文力マスターカード,学習用語のカテゴリー化,学習用語,定型と技術,10分間で400字
T
1 <学習用語のカテゴリー化>で<国語学力>を育てる
過日,次の発表を行った。[1]
『小学校国語科での<学習用語>のカテゴリー化による<言語教育カリキュラム>の開発』
その発表後,次を書いた。
柳谷直明著『<学習用語のカテゴリー化>で<国語学力>を育てる』,明治図書,2004年3月
これに<学習用語のカテゴリー化>の理論と実践を書いた。それをもとに次の教材を書いた。
野口芳宏監修,柳谷直明著,「鍛える国語教室」研究会/空知ゼミ著『確かな国語学力(基礎・基本)を育てるマスターカード』(全8巻,明治図書,2006年10月)
これで小・中学生に必要な言語活動とそれを適正にするための学習用語の系統を書いた。
これらは小学校現場での私自身の経験などを根拠として書いた。小・中学生に必要だと私が判断した言語活動とそれを適正にするために必要だと私が判断した学習用語を系統化した。
上記の「マスターカード」は全領域での教材集である。本研究では,<学習用語のカテゴリー化>の理論を「書くこと」領域に限定し,教材開発とその実践に取り組んだ。なぜなら,子どもの作文力を向上させるためには,更に多くの教材が必要だったからである。[2]
小学校国語科「書くこと」領域にて,誰でも指導できる「<学習用語のカテゴリー化>で<国語学力>を育てる」授業実践研究を報告する。
U
1 多くの教師は「書くこと」の授業時数を適正に保障していない
小学校現場では作文をあまり書かせていない。中学校になると,更に書かせていないようである。小・中学校では作文を何時間くらい書かせるのか。
『小学校学習指導要領』(平成10年12月)にこうある。
文章を書くことを主とする指導については,第1学年及び第2学年では年間90単位時間程度,第3学年及び第4学年では年間85単位時間程度,第5学年及び第6学年では年間55単位時間程度を配当するようにする(略―柳谷)
『中学校学習指導要領』(平成10年12月)「『B書くこと』に関する指導」にこうある。
指導に配当する授業時数の国語科の授業時数に対する割合は,各学年とも10分の2〜10分の3程度とすること。
つまり,小学校では国語科授業時数の3割以上,中学校では2割以上の「書くこと」授業時数が明記されている。これだけの時数を作文などの「書くこと」授業に使う。
先に書いた「あまり書かせていない」とは,これだけの時数が示されているにもかかわらず,これだけの時数を書かせていないという実態を指している。低学年で年間90単位時間だと,週2〜3単位時間になる。中学年で年間85単位時間だと,週2単位時間以上になる。
これだけの授業時数で「書くこと」を指導している教師は,ほとんどいないだろう。仮にいたとしたら,よほど熱心に「書くこと」に取り組んでいる教師と言える。
指導時数の実態を調査したわけではない。教科書教材の読解指導や漢字指導ですら十分に指導し切れていない小学校現場の実態からの推測である。中学校では高校入試対策などがあり,小学校以上に「書くこと」の時数を保障できないだろう。[3]
授業時数が保障できなくては子どもの書く力を伸ばすのは無理である。
学習指導要領が何度改訂されても,授業時数がそこに明記されても,現場の実態は変わらないだろう。「書くこと」授業時数を保障していないから,子どもの作文力が育たない。授業時数を保障していない小・中学校の現場教師に問題がある。
2 学習用語を明示する教材で国語科の問題を克服する
なぜ「書くこと」授業時数を保障しないのか。現場教師が作文(「書くこと」の主な言語活動)を指導できないからである。作文で何をどう指導するかが具体的にわからない。だから指導できない。例えば原稿用紙を目の前にし,1時間で1行しか書けない子がいる。その子に何をどう指導すると書き出すのか。具体的に答えられないのが現場教師の実態である。[4]
これは現場教師より国語科全体の問題と言える。国語科は指導する教科内容が抽象的である。だから現場教師はよくわからない。例えば教員養成系大学で,学生に作文指導の方法を具体的に指導していないだろう。
例えば『小学校学習指導要領』(平成10年12月)にこうある。
〔第1学年及び第2学年〕
B |
書くこと
|
〔第3学年及び第4学年〕
B |
書くこと
|
〔第5学年及び第6学年〕
B |
書くこと
|
いずれも抽象的な「指導事項」である。例えば「効果的に書く」と書いてある。どのように書くと「効果的」なのか。それを現場で指導する必要がある。それが『小学校学習指導要領』ではわからない。『小学校学習指導要領』だから抽象的なのだという反論もあるだろう。しかし国語科はあまりにも抽象的である。例えば算数科では『小学校学習指導要領』に指導する「〔用語・記号〕」が学年ごとに明記されている。国語科も学習用語を明記すべきである。
『小学校学習指導要領』の問題点は抽象的だというだけではない。「指導事項」が文種に対応していない。それぞれの「指導事項」は作文の過程である。「目的意識・相手意識,自分の考え」「取材」「構成」「記述」「推敲・評価」など,5つの「指導事項」はどの作文にも共通して扱う過程である。したがって,ますますわかりづらい。
つまり,手紙文で指導する事項は何か,レポートで指導する事項は何か,物語文で指導する事項は何かという文種に対応した指導事項になっていない。ただし言語活動例に挙げられている中に文種と判断できるものがある。[5]
絵日記,手紙(礼状・依頼状を含む),記録文,観察文,報告文,新聞。
しかし,これでは少なすぎる。そこで,子どもにとって必要な文種を更に増やす。そして,文種ごとの指導事項を具体的にする。文種ごとの指導事項を国語科の学習用語として書く。学習用語を明示すると,誰でも指導できる作文教材の開発が可能になる。
このように,指導事項が具体的でない。したがって,指導する文種を増やす。そして,文種ごとの具体的な指導事項を学習用語として明示する。
学習用語を明示し,指導する教材を『作文力マスターカード』として開発する。これを使うと,誰が指導してもどの子も書けるという仮説で本研究に臨んだ。
3 学習用語を明示する『作文力マスターカード』で国語学力を楽しく形成する
何をどう指導するか。「何を」を学習用語とし,「どう」は『作文力マスターカード』とする。『作文力マスターカード』では,次の文種を小学生から中学生まで扱う必要があると経験的に判断し,系統化する。
低学年―紹介作文,思い出作文,詩歌作文,物語作文,読者感想文,計画メモ,手紙(礼状,招待状),観察作文,問い作文,レポート,課題解決作文,新聞記事,引用(授業)作文,なりきり作文,たいなあ作文,論破作文,評価作文,読書日記
中学年―随筆作文,詩歌作文,物語作文,読者作文,計画メモ,依頼状・礼状,企画書,課題作文,レポート,課題解決作文,新聞記事,引用作文,PR作文,なりきり作文,夢作文,論破作文,評価作文,授業作文
高学年―PR作文,象徴作文,詩歌作文,物語作文,読者感想文,評論作文,計画メモ,依頼状,礼状,企画書,課題作文,レポート,課題解決作文,新聞記事,引用(授業)作文,紹介作文,夢作文,論破作文,授業作文,批評作文
中学生―PR作文,象徴作文,詩歌作文,物語作文,読者感想文,評論作文,計画メモ,依頼状,礼状,企画書,課題作文,レポート,課題解決作文,新聞記事,引用(授業)作文,紹介作文,進路作文,論破作文,評価作文,書評
この文種ごとに学習用語を決める。そして教材に書く。したがって,教材に書く文種ごとの学習用語を並べると学習用語の系統化も完成する。例えば,次のような学習用語である。
「マスターカード」1枚目では「作文の学習用語」として「文体,常体,敬体,文字,丁寧,句切り符号,かぎ,句読点,正しく,接続助詞,一文,短く,改行段落,一字下げ,書き出し,1分間で1行(低学年),速度」などを明示する。
更に「メモの学習用語」として「ラベル欄,抽象的,ブランチ欄,具体的,短く,順番,ナンバリング欄,数字,構成」などを明示する。
1枚目では音読や視写という活動を通して書く速度を鍛える。書かせたい文種の作文例やメモ例を音読させる。その後,視写させて適正な書き方を経験させる。
「マスターカード」2枚目では,その文種の特徴的な学習用語(主にその文種の定型)を音読させる。それをメモや文章の記述段階で行為化させる。
作文の話題は自分で決めさせる。自分が書きたい話題で取材,記述,評価をさせる。
このように,いくつかの言語活動を通して,メモや文種ごとの学習用語を指導する。文種の定型などをラベル欄に書かせ,ブランチ欄に具体的な話題をメモさせる。そして,「作文の学習用語」を指導し,適正に書かせる。文種ごとに学習用語(定型と技術)を指導する。
4 『作文力マスターカード』は誰でも指導できる作文授業マニュアルになる
『作文力マスターカード』を使うと誰が指導しても全ての子が書ける。なぜなら,次のように6つの言語活動が基本的な指導過程になっているからである。[6]
音読(作文例,メモ例)→視写(作文例)→音読(学習用語)→メモ記述(取材)→作文記述→推敲・評価
したがって『作文力マスターカード』は誰でも指導できる作文授業マニュアルになる。[7]
5 野口芳宏氏からの学びを教材化する
「マスターカード」は野口芳宏氏(「鍛える国語教室」研究会主宰)が開発された教材名である。今回開発した文種(例えば「論破作文」「読者感想文」)も野口氏に学んだものが含まれている。
では「マスターカード」とは何か。野口芳宏氏は次のように書いている。(「活用の手引き」『話すこと・聞くことマスターカード』明治図書,2002年1月)
「マスターカード」という言葉にはまだ馴染みが薄いことでしょう。これは野口の造語です。
これまで出回っているドリル,スキル,ワーク,テスト等々の用語のいずれともややニュアンスの異なるもので,次のような五つのねらいを重視しています。
(1)基礎的・基本的な厳選事項のみを網羅する。 (基礎学力重視)
(2)それらを完全に習得できる「マスター」に最大の力点を置く。 (完全習得重視)
(3)必ず具体的な自分の作業を通じて,体験的な理解を得させる。 (体得原理重視)
(4)作業結果の適否を対象化して自己診断でき,学び方を学べる。 (自力学習重視)
(5)実践行動化による技術の体得を最終目標とする。 (実践行動重視)
これらのねらいを教材開発で目指す。更に,次の野口氏の次の技術論を用いている。[8]
「技術」とは,「知識」を安定的に行為化することである。
つまり,「知識」を学習用語として明示する。そして,子ども達に指導し,評価する。その学習用語を「行為化」させ,技術として身に付けさせる。学習用語を身に付けさせると子ども達はそれを「安定的に行為化」し,言語活動を適正に行うことができる。
ただし,国語科だけで「安定的に行為化」させるのは難しい。そこで,国語科以外でも扱う文種を教材化する。すると学校生活全体で,「安定的」に言語活動(ここでは作文自体)を適正に「行為化」させることができる。
V
1 学習用語で国語科授業を変える
「『知識』を安定的に行為化」させるにはどうしたらよいか。次の手順が必要である。
(1)何ができないのかを診断する。
(2)何を指導すると子どもの不備・不足・不十分を向上させることができるかを決める。
(3)どう授業すると向上的変容を保障することができるかを決める。
(4)知識を安定的に行為化させるために,どうするとよいかを決める。
例えば「書くこと」では次のように指導する。
(1)何ができないのかを診断する。
@子どもに作文を書かせる。(言語活動の行為化)
A不備・不足・不十分を指す学習用語を選択する。(問題点の指摘)
例えば「常体と敬体が混在している。」「習った漢字が使われていない。」「一文が長い。」「句切り符号が正しくない。」「改行段落が無い。」「話題がつまらない。」「深まりが無い。」「つながりが悪い。」「展開がよくない。」などである。
この診断のために,我々教師が学習用語を知識として用意しておく必要がある。どの学習用語を知識として行為化させると作文が適正になるかを知らなくては指導できない。「何ができないのか」を診断するためにも,学習用語が必要である。
(2)何を指導すると子どもの不備・不足・不十分を向上させることができるかを決める。
指導する学習用語を決める。(指導事項の決定)
先のように,いくつかの問題を発見する。それら全てを1時間で指導しない。子どもを混乱させるからである。そこで今回の作文ではこれとこれを指導すると決める。(学習用語は拙著に詳しい)
(3)どう授業すると向上的変容を保障することができるかを決める。
大まかに次の3段階で学習用語を指導し,評価し,定着させる。
@学習用語を指導する(学習用語段階)
例えば,問題が顕著な作文を(氏名を除いて)全員に配付する。それで学習用語を指導する。または,学習用語を書いた「マスターカード」を開発し,使う。学習用語を知識として覚えさせるのが第1段階である。
A学習用語を知識として定着させる。(知識段階)
例えば,「一文」が一つの学習用語である。それを「短くする」とよいと教える。つまり,「一文」と「短くする」という2つの知識を関連して覚えさせる。これを行為化させるとよい。高学年では「構成」という学習用語を教える。その「順序を変えて工夫する」と教える。そして「構成の順序を変えて工夫する」という技術を知識として覚えさせる。このように,学習用語を関連させて覚えさせるのが第2段階である。
B知識を安定的に行為化させる。(技術段階)
覚えさせた知識を子どもが安定的に使えるまで指導し続ける。次の作文指導の際,学習用語を発問したり,他の作文を書かせる時間に行為化させたりして診断する。覚えさせた知識を自分で適正に使わせるのが第3段階である。
ただし国語科授業だけで知識を安定的に行為化できるわけではない。そこで国語科授業で指導した知識を安定的に行為化できるまで何度も作文を書かせる。国語科以外でも言語活動を使う場面を多く作る。そして,できていなければ指導する。
このように何を安定的に行為化すると作文が適正になるかを診断し,子どもにとって必要な学習用語を指導し,評価し,安定的に行為化させる。こうして子どもは学習用語の使い方を知識として理解し,身に付ける。すると子どもは,どの学習用語を身に付けると上達するかが具体的にわかる。そして,書けるという自信を持つ。すると,進んで書くようになる。
これまでの国語科では学習用語が明示されていなかった。だから子どもは何を学習すると言語活動が上達するかがわからなかった。そこでこの言語活動ではこの学習用語をこう使うとよいと具体的に子どもに教える。すると子どもにとって国語科は嫌いな教科ではなくなる。
2 1分間で20字を書く速度を鍛える
昨年度,1年生を担任した。2度目である。前回担任したときのように「話すこと・聞くこと」授業で話す力を鍛えた。1年生はすぐに1分間程度のスピーチをメモ無しで話す力が身に付いた。楽しくスピーチ指導を行うことができた。
問題は書くことだった。書く速度がまちまちだった。
平仮名指導を『確かな国語学力(基礎・基本)を育てるマスターカード』で行った。この教材を使った日本初の子ども達である。全員に平仮名を適正に身に付けさせた。
何度も書かせる教材なので,筆順を適正に身に付けさせた。片仮名指導の際にも平仮名の筆順を確かめることができる教材である。
1学期に平仮名指導を終え,文を書かせた。習ったばかりの平仮名が思い出せないで止まっている子がいた。一文字一文字に力が入り,なかなか進まない子もいた。
そこで速度の規準を伝えた。1分間で20字である。
教科書教材の視写をさせた。更に『作文力マスターカード』を開発し,実践した。視写をさせ続けた。すると全員が1分間で20字の視写速度に到達した。
しかし視写は本来の作文ではない。自分の頭で考えながら1分間で20字の作文を書かせたかった。そこで聴写をさせた。
「柳谷先生がおっしゃいました句点」
この聴写を何度もさせた。そしてこの聴写を全員が1分間以内で書くようになった。これで18文字である。この聴写を書けるようになるまでに何度も練習させた。
連続でこの1文聴写をさせると子ども達はどのような反応を示したか。
「先生,速く書けるようになって楽しかった。」
なかなか書けない子がいたので,10回くらいの連続で聴写をさせた。それにもかかわらず,速く書けるようになったので楽しかったと子どもは言った。1年生だからかもしれないが,できるようになるのは楽しいものである。向上的変容を実感させると楽しくなる。
聴写が目的ではない。自分の頭で考えて書かせる作文が目的である。そこでこうした。
「がおっしゃいました句点」と書いたら,改行段落にする。次の行の一ます目にかぎを置く。そして柳谷先生が言うことを正しく聴写する。つまり会話文を書く。いくぞ。
「柳谷先生がおっしゃいました改行かぎおやつはいらない句点かぎ」
これから1分間で賛成か反対かの意見とその理由をたくさん書く。始め。
これを「論破作文」と称して,何度も書かせた。すると全員が自分の意見と理由を1分間で20字の速度で書くようになった。これをマスターカード化し,他の作文もどんどん書かせた。これが『作文力マスターカード』を開発するための原実践である。(2005年9月である。)
これは「速度」という学習用語を指導した実践例である。
「速度」を速くするための工夫はない。ひたすら書かせた。これでは活動主義である。そこで,「10分間で200字」という知識を与えた。このような知識を指導することで子ども達の作文速度は向上的に変容した。
他の作文でも,どんな作文でも「10分間で200字」の速度を示すことで誰でもこの速度で書くようになった。このように学習用語を指導すると誰でも伸びる。
W
1 必要な文種の授業化[9]
@ 姿勢を正して,礼。
1 これから生活科の学んだことを発表するんだよね。練習してる?
2 で,どうもね,インタビューしたことを忘れている人がいるみたいなんだよね。ちゃんと覚えてる? 自分が何をインタビューして,どう答えてもらったか?
「で」が不要である。子ども達は生活科でインタビューした情報を班ごとにそれぞれの方法で発表することになっていた。ポスター・スピーチ,ニュース番組風の劇,ペープ・サートなどである。発表方法を決めて,班ごとに準備を進めていた。それはそれで,楽しく学習を進めていた。しかし,実際に教えていただいた情報を発表に取り入れていない班が目立った。そこで,班ごとに行ったインタビューで教えていただいた情報を再度作文に書かせた。インタビュー・メモは書かせていたが,それを文章化していいなかった。子どもにとっても必要な教材と言える。[10]
3 全員起立。教えて戴いたことを自分達の劇とかとして発表するんだよ。それを忘れちゃあ話にならん。
4 自分が何をインタビューして,何て教えてもらったかを思い出したら座る。
A 先生,休んだ人はどうするんですか?
5 こんな質問をしようと思っていたけど,休んじゃって出来ませんでした,でよい。
5人ほど,なかなか座らない。
やはり忘れている子がいた。時間がかなり経過しているので,仕方がない。しかし,班ごとに発表の練習を行ってきたので,忘れられては困る。班活動をさせる際,積極的に参加できない子を支援する必要がある。そこで,このような評価場面を作る。
6 立っている人に教えてあげて。班の人。あなたこれだったでしょうって。
記録に書かれていないが,教材を配り出したのだろう。授業の始めに言語活動を板書する場合が多い。しかし,この授業では,インタビューを思い出すために書くという授業の目的が明らかなので,すぐに教材を配付した。言語活動を板書した方がよいだろう。
7 名前,書いている人,偉い。
名前を書き出す。「年の所には,2006と書く」などを指導する。
8 鉛筆置く。プリント貰ったら,たったかたったか書く。
全員が氏名を書き終わるまで待たない。ここで全員が氏名を書くのを待っていると速くできた子が遊び出す。できる子が遊び出すと,全体がざわつき,授業が崩れる。一番速くできた子が作業を終えた辺りで作業を止めさせる。氏名を書けなかった子は,後でさせればよい。
2 指導過程1 音読(作文例,メモ例)
指導過程1の次に指導過程2の「視写」がくる。しかし「視写」の次に「取材メモ」の音読がある。それを指導過程として分けると煩雑なので,「作文例の音読」と「メモ例の音読」を一つの過程にした。ただし,学習用語は「取材メモ」の後に抽出して音読させる。更に2枚目の最初にも学習用語を音読させ,指導する。したがって,「学習用語の音読」は別にした。
9 先生が書いてきたレポートを読む。
「レポート」という言語活動の説明をしていない。「報告する文章をレポートと呼ぶ。インタビューを忘れないために,レポートを書く。」このくらい短く,説明した方が丁寧である。しかし,1年生に説明してもよくわからないので,ここでは説明を省いて,どんどん活動させた。
文章例を全員で音読する。
10 止め。この間,野口先生にも言われたけど,読み方遅い。(1文範読)始め。
早く音読させる。教師も一緒に音読し,スピードを提示している。
口が動いていない子,先生の口真似をして文を見ていない子などを指摘する。
11 音読のときは声に出して読んでいる文字よりも,先の文字を目で追う。これを目ずらしと言う。先生のマスターカードにも書いてあったね。
音読の続きをさせる。
3 指導過程2 視写(作文例)
12 では,㊁どうぞ。
B 丸2,左のレポート例を1分間で視写する。
13 わからない文字は平仮名でもよい。始め。
余計な言葉を削る。教材に書いた設問だけを読むと指導できるようにした。
1分間視写をさせる。
14 止め。20字いった人は丸を塗っておきなさい。20字いったらもう合格。
15 20字いってない人起立。あら,いっぱいいるね。35人もいる。
16 20字くらいまではがんばりなさい。「1年生全員」とか,難しい漢字は平仮名にしていいからね。
17 用意。また最初から書けばいいの。違うよ,「視写カード2」だよ。20いかなかった人がんばんなさいよ。始め。
1分間視写,2回目をさせる。
18 止め。
子どもは文字を数える。
19 20いかなかった人,起立。20人かな。座ってよい。
20 さっきより(文字数が)増えたな,っていう人。(ほとんど全員挙手)おお,すごい。
21 とにかく,20字いかなかった人は,おうちでも書く練習しなさい。書くと,速くなる。書かないとどんどん遅くなる。
22 ㊂,音読始め。
書き出しのラベル欄までを音読させる。
「今,読んだ所はどこ? 隣の人を見て。」こう,きちんと読んでいない子を確認する。
音読しながら,説明を加えていく。
23 取材。食料品店。ここには自分が行ったお店を書くんだよ。トイマートならトイマートって。
24 質問。ヨーグルトは何種類あるんですか? って全部メモしなくていい。ヨーグルト,種類,と短くメモする。
25 尋ね。質問してそのまま終わるのは,ちょっとさみしいよ。もう一度尋ねる。
26 では,ここに書いてあるメモを30秒以内で音読する。読めない漢字は飛ばしてもよい。始め。
音読する。5秒,10秒,15秒……と時間を読んでいく。
27 もう一度挑戦する。始め。
音読する。1回目よりも速い。
4 指導過程3 音読(学習用語)
28 止め。下の学習用語を読む。始め。
C 「書き出し」「取材」「質問」「答え」「尋ね」。
29 どこに書くの? ラベル欄に書くよ。
板書しながら,漢字の説明や尋ねと質問の違いを説明する。
30 起立。覚えたら座る。
板書を覚えて,座る。
31 座る。もう見ないで言えた人。30人くらい。
32 裏。いよいよみなさん書いていくよ。1どうぞ。
D ラベル欄。
33 ラベル欄,って覚えたら□にチョンって入れるの。
34 4つ覚えた人,起立。
全部覚えた! の声に,すばらしい,と応える。
35 2番。どうぞ。
音読。漢字が難しいので,読んでいた。
「書き出し」「問いと答え」「改行段落」「一文」「敬体」である。
36 この「書き出し」「問いと答え」「改行段落」「一文」「敬体」を覚えたら起立。
「座っている人に教えてあげなさい。」などの声かけをする。
5 指導過程4 メモ(取材)
37 止め。では,ラベル欄に何て書くの?
E 書き出し。
38 次のラベル欄には?
F 取材。
39 どんどん書いていく。ラベル欄を先に書くんだよ。漢字で書ける人は漢字で書いた方がよい。
40 ラベル欄,全部書けた人は起立。
立った人は,座っている人に見てあげて。こう指示する。
41 席に戻る。止め。まず書き出しには,いつどこで,って書くんだよ。これは,みんな一緒だよね。
G 2月2日。
42 2月2日,ポスフールって書くんだよ。隣の人,見てあげて。さっさと書くって言ってあげて。
43 止め。まだ書いていない人。(8人くらい。)さっさと書きなさい。
44 次は一人ひとり違うぞ。どの店に行ったか,自分の行ったお店を書く。
H できました。
45 さあ,締め切るぞ。まだ書いていない人? どのお店に行ったの?
46 では次,なあに? 自分がした質問。さっき思い出したでしょう。書く。
47 かぎは今,メモだからつけなくてもよい。短く書く。
消しゴムはしまうことを指示する。まだの人を確認する。
48 では,そのときに教えて戴いたことを書く。答えに書く。何て教えてくださったの?
49 長すぎる人,短く書いて。作文には長く書いていいけどね。
50 止め。鉛筆置く。
51 で,自分が質問したのを答えてくださったよね。更に,尋ねることが出来た人。(5人ほど)すばらしい。その人は尋ねの所に書いておきなさい。
「で」が癖になっている。不要である。
6 指導過程5 記述
原稿用紙を配付する。
52 名前書いている人は賢い。先生が黒板に書いたことをすぐ見てやっている山中さん,賢いね。あ,井里奈ちゃん,内君。いいね。
53 鉛筆置く。題名は工夫した方がいいよ。ただポスフールとかインタビューとかじゃ,つまらないよ。後で考えて書きなさい。
54 いくぞ。今のメモを見て書く。
55 どこから書くか,指を置いてごらん。横の人見て,大丈夫?
56 メモに書いていないことどんどん書いていいよ。メモに書いてあることを書いてももちろんよい。
57 10分間で半分いけばいいよ。さっき20字いかなかった人は,少し急ぎなさい。先生のレポートを見ながらまねしてもよい。途中で裏返して先生どうだったかな,って見てもいいよ。始め。
10分間,作文を書かせる。机間指導で個別指導する。
速い子の様子を全体に伝える。遅い子には個別指導する。
58 終了。いいか? 内容はともかく,半分いかなかった人,起立。(10人)今,立っている10人は,もう少し速くなるように,がんばんなさい。座っている人は合格。
I 姿勢を正して,礼。
59 班長さんが原稿用紙とメモ用紙を分けて集めてきて。
指導過程6の「推敲・評価」は,この時間内ではできなかった。
「推敲・評価」では学習用語を使っているかどうかを自己評価する。10項目の自己評価で100点満点にする。
学習用語で点検させながら,作文を修正させる。子どもは修正しながら,学習用語を覚えることができる。
1時間で「推敲・評価」までできない場合には次の時間にさせる。
清書させる場合には,次の時間に「推敲・評価」させてから原稿用紙に清書させるとよい。
X
1 評価規準(10分間で200字)を全員に保障した
1年生の4月,平仮名全部を読めない子が数名いた。平仮名全部を書けない子はたくさんいた。そこで『確かな国語学力(基礎・基本)を育てるマスターカード』(野口芳宏監修,大谷和明著,「鍛える国語教室」研究会空知ゼミ著,2005年10月)の原稿を使い平仮名,片仮名を指導した。6月末くらいから,文を書かせる指導を始めた。
2学期,一文字一文字に力を込めてゆっくり書いている子がいた。その子は1分間で10字を書けなかった。そこで,視写や聴写を繰り返してさせた。すると全員が1分間で20字以上を書くようになった。しかし,作文では手が止まってしまう子がいた。その子を育てる教材が必要だった。そこで本研究に取り組んだ。そして『作文力マスターカード』を開発した。
3学期には,学級(当時25名)全員が10分間で400字詰め原稿用紙半分以上(200字程度)を書いた。学級の半数の子が10分間で1枚以上(400字程度)を書いた。『作文力マスターカード』で速く書けるように育った。全員に一定の速度で書く能力を身に付けさせることができた。
現在,この子達を持ち上がり,2年生の担任になった。
4月に書かせた作文では,26名中18名が10分間で400字詰め原稿用紙1枚以上を書いた。速い子は2枚くらいを書く。今回は『作文力マスターカード』を使わせなかった。原稿用紙を配り,書きたい題材で書かせた。
このように『作文力マスターカード』で鍛えた結果,書ける子に育っている。[11]
2 向上的変容を全ての子に保障する
私はこれまでの経験から,10分間で200字という規準で指導した。その結果,この規準を超え,更に速く書く子が育った。ただし,速く書く能力を育てるのが作文指導の目的ではない。今後は子ども達が書きたい意欲を喚起する場づくりをしていきたい。そして,必要に応じて文種を使い分けさせ,相手に伝えたい内容を適正に伝えるように指導したい。
国語科で育てた能力を学校生活全体での言語活動を必要とする場面で適正に行為化させる。例えば,生活科での新聞づくりなどである。1年生で新聞を作成させた。今年度は更に,他の学年の子にも楽しんで読んで貰えるような上手な散らしや新聞を作成させたい。
3 目の前の子どもの実態から教材や授業をつくる
『作文力マスターカード』では授業のマニュアル化も目指した。
誰が指導しても,全ての子の向上的変容を保障したかったからである。その結果,殆どの教材が同じ形になった。文種ごとに作文例やメモ例が変わるだけである。
このような教材を使うと子どもには慣れさせやすく,使わせやすい。しかし,単調である。したがって,その作文の必要性を授業の導入で伝えたり,作文を清書させてから発表交流させたりするなどの楽しさを子どもの実態から指導者が工夫してほしい。
資料1 当日使用した「レポート・マスターカード」(表と裏を縮小した。)
資料2 子どもが書いた「メモ・カード」(2名分を合わせて複写した。)
資料3 子どもの作文
[1]全国大学国語教育学会第104回大会(春季大会),2003年5月24日(土),早稲田大学15号館にて。
[2]昨年度(2005年度)担任した1年生での実践報告である。私の学級の25名の子どもだけでなく,1年生全体の74名の子どもに対して指導した。学年全体の子どもの作文力向上に取り組んだ。
[3] 拙著『<学習用語のカテゴリー化>で<国語学力>を育てる』,明治図書,2004年3月,82ページに当時担任していた5年生の実態を書いた。担任したばかりの4月には10分間で400字を書いた子は32名中3名だった。一番書けない子は10分間で2行だった。現場では作文が適正に指導されていない。一番書けなかった子の変容は「一 国語授業修業 言語活動の手続きが主な国語学力だ――すべての子どもが「参加」できる授業づくりの方法――」『組織力ある学習集団をつくる』(大谷和明著・TOSS/FreeTalk著,明治図書,2004年2月)に書いた。この子達も5年生の3学期には31名が10分間で400字を書いた。
[4] 一般的な例である。1時間で1行しか書けない子はそう多くはいない。学年で1名いるかいないかである。最近の私の作文指導では10分間で止めさせる。1時間という長い時間で作文を書かせる授業は少ない。したがって,私の授業では1時間で1行しか書けない子はいない。
[5]昭和33年度発行の『小学校学習指導要領』には「絵などを見て」「日常生活」「学習」「行事」「記録」「新聞」「手紙」「感想」「物語」「報告」「意見」「抜き書き」「詩」「脚本」などの文種や「文」「文章」「視写」「聴写」「要約」「文集」などの活動が明記されている。現行の『小学校学習指導要領』より文種が豊富である。
[6]小川末吉氏「基本的指導過程」にこうある。「(前略)一九六三(昭和三八)年輿水実によって提案されて以来、国語科の学習指導過程として全国的に定着した。」(『国語教育研究大辞典』明治図書,1991年7月,173ページ)。本研究の「基本的な指導過程」は輿水氏の「基本的指導過程」とは違う。本研究は学習用語を明示し,指導し,評価し,行為化させる点に独創性がある。
[7] 1年生74名を(私を含めた)学年3名の教諭で交替して授業した。その結果,誰が指導しても書かせることができた。したがって,誰でも指導できる教材だと言える。
[8]野口芳宏氏「作文力形成の画期的新教材を推す」『鍛える国語教室』(bX)2006年春号,「鍛える国語教室」研究会/空知ゼミ発行。柳谷直明が編集している冊子である。柳谷のHPに詳しい。『言語教育への道』http://www.phoenix-c.or.jp/~naoir/
[9] 2006年2月20日(月)1時間目,私の授業記録である。小学1年生74名に授業した。釜谷いずみ氏が授業中に記録してくれた。柳谷の発話はゴシック体,子どもの発話は明朝体にした。子どもの発話はかなり省略している。地の文は釜谷氏の解説である。二重枠は柳谷の補足である。一部,読みやすく修正している。
[10]調査課題は班ごとに調査したい店での問いから作らせた。例えば,食料品店でヨーグルトの種類を調べるなどである。近くの大型店舗には多くの種類の店が入っている。
[11]低学年用教材を学年の先生方と協力して書いた。それを明治図書の江部満編集長が評価してくださった。そこで中学年,高学年,中学生用を私が編集し,「鍛える国語教室」研究会のメンバーに執筆して戴いた。近く,明治図書から出版される予定である。(マスターカードは当日使用したものをかなり修正した。)